2022
09.04

サトウキビの杖は必要か ご先祖様とのコンセンサスを探る

八重山

石垣市内の商店で売られていたグサン=2014年8月6日

お土産を担ぐことも

 石垣島で暮らすようになってすぐのころ、街の商店や市場でサトウキビの茎が売られているのを見て不思議に思うことがあった。ひょろ長いサトウキビがそのまま、あるいは何本か束ねられて店先に置かれているのだ。しばらくして、これはお盆のときに使うものなのだと知った。方言で「グサン」といい、仏様が杖代わりにするのである。

 石垣島のお盆は大抵の場合、旧暦の7月13日から15日まで3日間行う。最終日の7月15日に、仏様をあの世へお送りするのだが、宮城文著「八重山生活誌」では、この送り日に準備するものとして「グサン(杖)として長い一本のままの甘蔗を二本供える」と説明している(542~544ページ)。八重山地方の郷土学習資料として石垣市立図書館に収蔵されている「八重山探検隊レポート4 八重山のお盆」では「祖先があの世におみやげをかついでもっていくための道具とも杖ともいわれているよ」(111ページ)とされ、仏様が供物を持ち帰るための道具という意味が加わっている。

ただし、何事にも例外というものがある。

「送り火」はしない

 八重山の台湾出身者がお盆にグサンを用意するかというと大きな疑問符が付く。これは、2003年から2022年までの間、5つのお宅にお邪魔し、お盆の仏壇を計17回拝ませていただいた結果である。私がお伺いしていないお宅は数多くあるし、私自身、視界に入っているのに気付いていないということもある。だから、グサンがないと言い切るつもりはない。しかし、クーグヮーシィ―(粉菓子)や果物など、ほかの典型的なお供えに比べると、グサンの存在感は明らかに薄い。

 石垣島で生まれた台湾系2世の人たちに尋ねてみると、60代男性は「仏壇の前にお供えをしたら、それで迎えるという感じ」と話していた。これと似た感覚を40代女性が次のように説明してくれた。幼いころに石垣島の自宅で行っていたお盆のことである。

 「仏壇で、15日(註:旧暦7月15日のこと)にお昼にわーってごちそうやってたんですよ。15日に『迎え』とかそういうのもやってなかったんで、この15日の日にご先祖様を祀るっていう感じですね。『お迎え』とか『送り火』とかいうのはなかったですね」

 旧暦7月15日にお供えをすると、仏様たちがそこへ来ていると考えられているようなのだ。そこに居るといってもいいだろう。生きている人間と仏様との間では、旧暦7月15日には墓前や仏前で食事を共にするというコンセンサスが成り立っているのかもしれない。仏様が自分で来て、自分で帰っていくのである。だから、生きている人がわざわざ杖を用意してあげることもない。

 石垣島では、旧盆が近付くと、束ねたサトウキビが街屋ぐゎーの軒先に置かれ、お供え用に販売される。いかにも季節を感じさせる光景だが、グサンは旧盆に欠かせない必須アイテムかというと、そうとも言い切れないようなのである。

●アイキャッチ画像は石垣島のサトウキビ畑の風景。2012年1月30日撮影

コメントは利用できません