2022
08.27

竹の芯は爪楊枝に 無縁仏への「パイパイ」

八重山, 台湾

お盆のお供えに線香を用意する曽根春子さん。左足にけがをしたため、杖を使って歩く
=2022年8月12日、石垣島

石垣島平得地区の農村部で暮らす曽根春子さんは、旧暦7月15日の夜、自宅の庭に盛大な供え物をして、「パイパイ」する。「パイパイ」というのは、拝むということである。石垣島で暮らす台湾系の人たちのなかでも、曽根さんはとりわけ大き目に庭のお供えを用意する人である。

 お供えは、行き場のない仏様(無縁仏)のためである。

箱ごとのお供え

収穫したパインアップルの実を入れるのに使うプラスチック製の箱をいくつかひっくり返して並べ、台を作る。幅1メートル80センチ、奥行き1メートル20センチほど。その上に、鶏肉、豚肉、魚、果物、市販の餅菓子といったものが皿に載せられて並ぶ。缶入りの緑茶、カップ麺、スナック菓子の類は段ボール箱のままでドンッと。酒はパック入りの泡盛を用意し、3つのグラスに注いで供える。曽根さんは最近、左足の甲を痛めてしまい、歩くのに不自由しているが、家族や親類が手伝っていつも通りにお供えをすることができた。

 石垣島は、日本の南西端に位置するせいで、夏場の夕方6時半といっても十分に陽が高い。庭のお供えはだいたいそのころから始まり、供え物のひとつひとつに火の付いた線香を差して供える。その後、線香が短くなってから新しい線香を供え直すということを2度行い、夜の9時半ごろまで約3時間にわたって「パイパイ」を続けた。

 お供えの間、背後から満月がゆっくりと上がってきて、地面が思いがけない明るさに照らされていたりする。ことし(2022年)は、首都圏にある大学に在籍しながら研究している米国の大学の若者が2人見学に来ていた。お盆のこともさることながら、外来生物のオオヒキガエルがガサゴソ音を立てているのを曽根さんの孫が捕まえてみせたり、キーキー鳴きながら夜空に翼を広げるコウモリに声を上げたりして、それなりににぎやかだ。ひたすら「パイパイ」しているわけではなく、おしゃべりの声が意外によく響く。夜空に拡散しているはずなのに。

現世とあの世と

お供えを締めくくるには、仏様たちが満足したかどうか確かめなければならない。そのために使われるのが、「ポエ」と呼ばれる半月型の道具だ。曽根さんは、仏様の気持ちを尋ねる時、左足のけががよくなるようにお祈りをし、「治してくれたら、たくさんお供えをする」と約束した。

 曽根さんのお盆に、私は何度となくご一緒させていただいているが、いつ来ても神仏との近さを感じさせられる。現世とあの世を隔てているはずの境界の曖昧さと言い換えてもいい。眼に見えない存在を現実のものと取り違えてしまいそうになるから不思議だ。

 庭のパイパイが終わり、曽根さんは片付けの指図をしながら言った。

「台湾は、道のところに竹がいっぱい生えてる。お盆のパイパイやって、次の日の朝、道を見ると、竹の芯がいっぱい落ちてる。あれは、神様がご馳走を食べて、竹の芯を爪楊枝にしたんだよ。ほんとうよ」

 竹の「芯」というのは、細長く尖った竹の先のことを言っているのだろう。曽根さんは独特の言い回しで説明をした。竹は節の間が中空になっているのに、それをどうにか爪楊枝にしてしまう神仏のなせる技をこっそり教わったような気がして、境界がまたも溶けそうになった。

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