2022
10.15

どん詰まりの駅を訪ねて蘇澳

台湾

そこで列車を降りたら、その先へは行けない駅が台湾にもいくつかあるが、私はそのうちのひとつ、蘇澳駅をよく利用する。レールは駅のもう少し向こうまで続いているが、突き当たるようにして列車が停止するホームがひとつだけあり、端っこ感を味わいたい人にはお勧めだ。私もこのどん詰まりの感覚は嫌いではないが、訪れるたびに乗客が少なくなっていくものだから、列車の本数が減ってしまうのではないかと気が気でない。

蘇澳駅。台北方面からやってきた列車はすべてこの駅で折り返す=2022年9月16日午後、台湾・宜蘭県蘇澳鎮

馴染みの駅

6月下旬、不安が現実のものになりかけていると気付かされる出来事があった。台湾鉄道のダイヤ改正により、特急の乗り入れが廃止されたのである。発着する列車は、鈍行列車や快速の普通列車だけということになったのだ。

 蘇澳駅は、かつては八重山の人たちには馴染みの駅であった。日本が台湾を統治していた戦前や、戦後しばらくの間、蘇澳駅の近くにある南方澳漁港は八重山と台湾を結ぶ出入り口の役割を果たしていた。出稼ぎのためとか、台湾にいる親戚を訪ねるためとかといった理由で南方澳に到着した人は、蘇澳駅から列車で台北などの都市部へ向かった。八重山へ戻る時にはこのルートを逆に行く。戦後の引き揚げでは、列車を乗り継いでなんとか蘇澳駅までやってきた人が、南方澳漁港で船を待ち、無事に八重山へ戻ることができたということもあった。

 こんにち、蘇澳をめぐるアクセス環境は大きく変化している。南方澳漁港は観光地としての認知度が高まり、後楽客を見かけることは珍しくない。台北方面との間を結ぶ道路環境が向上し、観光バスやマイカーで1時間ほどで来ることができるのだ。列車では所要3時間ということもあり、利便性は比較にならない。バス路線にしても、列車に比べて所要時間は短く、運賃は安い。鉄道離れに拍車が掛かるのも無理はない。

運賃は割高でも

そうはいっても、ゆかりの駅から人の気配が遠のいていくのを黙って見ているだけというのもさみしい。少し時間に余裕を持たせることで、蘇澳駅発着の列車を使うことができるし、多少割高な運賃もほかの何かを我慢すれば出せない額ではない。

 お金を払う時、商品やサービスを手に入れたいだけではない。せっかく使うお金なのだから、意味のある使い方をしたいと思う。私一人の心掛けぐらいでは、蘇澳駅の列車ダイヤが向上することはないだろう。そんなことは百も承知である。それでも、南方澳へ訪ねる時、また、蘇澳へ行くときは、できるだけ列車を使いたいと思う。どん詰まりのダイヤを体感することで、ここから先は海なのだということがわかるし、八重山とのつながりを意識することができるからである。

TOP画像説明:蘇澳の南方澳漁港にある南天宮に登場したタンキー。刺球という道具を使い、自らの体を傷付けていた=2022年10月1日午前、台湾・宜蘭県蘇澳鎮

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