05.03
田園地帯へ麺を食べに行く
地図アプリで下調べはしてあったので、「上洛陽」というバス停で降りればいいということは分かっていた。目指す食堂がある場所はすぐに見当が付いた。道に迷うほどの大きな町ではない。台湾島の一番南にある屏東県の、広い農地が広がるなかに開かれた塩埔郷の一集落である。
知り合いの知り合いの紹介
この店に行ってみようと思ったのは、この前日、同じ屏東県の里湖郷や九何郷で畑や農業試験場をあちこち案内してくださったC氏の一言だった。
「石垣島のHさんの親戚が、塩埔で麺の店をやってるよ。とってもうまいよ」
知り合いの伝手を頼って台湾を歩いていると、意外なところで知り合いの名前が飛び出す。Hさんも、私が石垣島で暮らしていたころからの知り合いで、最近も半年ほど前に顔を合わせたばかりである。そのHさんの親戚の店があるというのだから、行かねばならない。

そもそも、C氏にしても、もとはといえば、石垣島に住むまた別の知り合いの台湾出身者Tさんから「ぜひ会いに行ってみて」と勧められて知り合ったのである。要するに、私はTさんからC氏を紹介され、C氏からさらにHさんの親戚の店を勧められたのである。
麺とスープをお願いする
店の名前は「大廟口麺店」といい、その名の通り、廟の目の前にある。
朝8時半という早い時間だったが、店のなかでは小柄な女性が大きなエプロンをかけて立ち働いている。ほかに客はいないが、厨房からうっすらと湯気が立っているのが見えたので、注文には応じてもらえそうだ。声を掛けて、麺とスープを頼んだ。
調理を始めた女性に、私は、石垣島のHさんの知り合いの店だと聞いてやってきたということを説明してみた。女性はにこにこ笑っていたが、「よくわからない」とでもいうように、何度か首を振った。

仕方がない。よくあることだ。深追いすることもないので、私はテーブルに付いてお椀が運ばれてくるのを待つことにした。この日の朝、屏東駅近くで豆乳と台湾風お焼きの朝食を済ませていたので、腹が減っているというわけではなかったが、石垣島の台湾人が関係している店だと思うと、放ってはおけない。麺とスープが大好きという性分でもある。
私が店に来て、食べ終わるまでにかかった時間は20分ほど。この間、客は一人も来なかった。早すぎる客の来訪に忙しい思いをさせてしまったかなと思いつつ、80台湾元を支払った。日本円にすると、350円ほどである。

代金のやり取りをしながら、懲りずにもう一度話しかけてみた。今度はもう少しシンプルに「私は沖縄に住んでいました」と自己紹介的に話しかけた。すると、女性が表情を崩し、「石垣島に知り合いがいるよ」と答え、Hさんのことを言った。これでようやく会話が成り立ち、共通の知人がいることを確かめ合うことができた。
リアルに進行
石垣島や八重山と台湾の間では、人が行き来し、今もリアルに進行している。台湾の現役の農家と、石垣島に暮らす台湾人たちの間に知り合いのネットワークがあるというのが、その何よりの証拠だ。
C氏はこの夏、石垣島への旅行を計画しているそうだ。クルーズ船なので島にはそれほど長く滞在することはできないが、石垣島にいる知人たちと会い、同じ台湾人同士で楽しい時間を過ごすのであろう。往来の歴史は現在進行形で蓄積されているのだ。
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【トップ画像の説明】
塩埔郷にある麺の店。石垣島に住む台湾人Hさんの親戚が切り盛りする=2023年3月30日朝
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