10.28
『宝島』を読む、観る/与那国も登場
広瀬すずが秀逸
小説『宝島』と映画『宝島』は、密貿易や支配をめぐり、暴力をいとわない者たちが描かれる。一方、こうしたアグレッシブなシーンと対照的だったのが教師の「ヤマコ」だ。社会の構造的な問題と地道に向き合うという設定だ。物語の土台となっている米軍統治期の沖縄のことは、「ヤマコ」がいてこそ、その大枠が理解できる。映画では「ヤマコ」役の広瀬すずが、この大事な役回りで秀逸な演技をみせていた。広瀬すずのことは、北海道十勝地方が舞台となったNHKの連続テレビ小説「なつぞら」ぐらいしか知らず、実にうかつだった。
「ヤマコ」の立ち位置については、ダイアン・キートンに関する記事をネット上で検索していて、気付いたことがある。『ゴッドファーザー』のなかでダイアン・キートンが演じた「ケイ」は「マフィア社会の“外側”にいる存在」だったとみなされるとのコメントをいくつか読んだ。これになぞらえるなら、「ヤマコ」は『宝島』のなかでアグレッシブなパートの「“外側”にいる存在」だ。「ヤマコ」の視線で眺めていれば、物語の展開を見誤ることはないといえるだろう。

辛抱強く向き合う
「ヤマコ」は、他者の葛藤を飲み込もうとしたものの、消化しようにも消化しきれず、内面化することも、さりとて暴力に訴えるわけにもいかないという苦しみを抱えていた。こうした境遇に共感できる人は少なくないはずだ。内面の複雑さを的確に演じることは、なおさら簡単ではない。とりわけ、沖縄の女性を母として生まれ、父親の沖縄駐留米兵を知らない「ウタ」と辛抱強く向き合う姿は、「周縁」に置かれた人の言葉を聞き取ろうと努める尊さを思い出させてくれる。「小説」も「映画」もあくまでフィクションだが、「ヤマコ」はノンフィクションな実社会への橋渡し役を果たしてもいた。
「周縁」
『宝島』で描かれる密貿易は、主役として控えるコザ=沖縄本島の両側に、トカラ列島や与那国島が脇役として控える構造になっている。米軍統治期の密貿易を的確に把握しているといえる。ただ、八重山台湾ニストの私からすると、「周縁」に起点を置いてこそという思いがある。米軍統治期の密貿易を米軍統治のエリアとだぶらせるだけでは物足りない。南西側は台湾、香港、中国大陸、さらにその先への影響が広がる。北東側についていえば、話は日本各地のヤミ市に及び、戦後の日本復興へと伸びていく。たとえば、神戸市の戦後復興を調べてみれば、そこに発生した需要に応える供給ルートに密貿易が含まれていたことに気付くであろう。
『宝島』では、与那国島で米軍の取り締まりが行われたのち、島を根城にしていた密貿易グループが沖縄本島へ移り、これがストーリーのなかで重要なカギを握っている。密貿易のことなら、確かに、与那国島はコザと十分に張り合える。『宝島』ができあがっていくプロセスで、与那国島への目配りが利いていたものと推測する。小説を読んでいて、また、映画を見ていて、とりわけうれしく感じた。


