07.04
台湾の染料を金星さんに教わる 「海続き」のところに八重山の紅露(クール)
台湾東部の離島、亀山島から移住してきた人たちのコミュニティを訪ねた時のこと。そこには亀山島漁村文化館という施設があり、暮らしの道具や民俗資料を拝見していると、植物の根っこを使って紫色(深い赤)に染めた漁網が目に留まった。ご案内くださった地元の方の説明に依ると、名前は「薯榔」と表記するのだそうである。

八重山の織物と同じ?
八重山で取材活動をしていたころ、植物由来の染料で染めた織物を拝見する機会は少なくなかったが、その時に目にした「クール(紅露)」と呼ばれる染料と似ているというのが、この「薯榔」の第一印象であった。
ネットで学名を調べてみた。
「薯榔」
Dioscorea matsudai Hayata
Dioscorea rhipogonoides auct. non Oliv.: Henry
Dioscorea cirrhosa Lour
「紅露(クール)」
Dioscorea rhipogonoides

案の定、一致している部分があり、どちらも「Dioscorea」、「rhipogonoides」が使われていた。これは、と思い、西表島「紅露工房」の石垣金星さんにメールでご連絡を差し上げた。数時間後に短い返信があった。
「八重山のと同じ紅露(クール)そのものです。原住民たちは織物染色につかっております。」
「八重山の原住民」
私は「やはり」と思った。
この時の「やはり」には、2つの意味がある。一つは、やはり紅露だったのかという納得感。
そしてもうひとつは「やはり金星さんが知っていたのだ」という意味である。金星さんが暮らす西表島を始めとする八重山は、台湾と地理的に近接し、同じ緯度帯にある。植物資源の使い方にも似たところがある。こうした知識を、金星さんは染織や農業、イノシシ猟といった実践を通じて蓄積し、台湾との間で、とりわけ台湾の原住民族(先住民族のこと)との間で付き合いをしている方であった。だから、台湾の植物染料のこともご存じであろうと思ってはいたが、お尋ねしてみると、「やはり」そうだったのである。
「陸続き」という言葉があるが、海でつながれた「海続き」という関係もあるのではないか。島々からなる八重山の人たちが培ってきた、この土地ならではの感性と言い換えてもいい。石垣金星さんは「海続き」で行動し、ものを考えることができる代表的な「八重山の原住民」であったと思う。
石垣金星さんは、2022年6月30日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
「原住民」という表現は、不快な印象を与えることがあるため、新聞などでは使用しないことを原則としています。本稿では、原住民たることへのリスペクトとして石垣金星さんを「八重山の原住民」と表現しました。


