10.15
石垣島の土地公祭に新しい風
慣例にとらわれない
石垣島の土地公祭では、2年連続で新しいメンバーが炉主(ろしゅ、ローツー)に選ばれた。炉主とは、土地公の神様を1年間お世話し、土地公祭の当日には祭祀全体を司る重要な役割を担う人のこと。通例では、長年八重山で暮らしてきた人が炉主となってきたが、去年(2024年)と今年はこの慣例にとらわれない形で、炉主が選ばれた。

土地公は、台湾で広く信仰を集める土地神である。福徳正神とも呼ばれる。石垣島では、戦前の1940年代から台湾出身者が旧暦8月15日に集まり、土地公を祈願してきた。この営みが「土地公祭」である。アジア太平洋戦争の影響で一時期中断を余儀なくされたほかは、毎年続けられてきた。この土地公祭を司る炉主は、八重山の台湾人社会の中で尊敬を集める存在である。
なぜ土地公は選んだのか?
炉主は、八重山に住む台湾出身者がその名前を聞けば、その人がどのような人かわかるといった人物が選ばれてきた。ここ数年の間に石垣島にやってきた台湾人が炉主に選ばれることは異例である。土地公祭の会場で「新しく選ばれた炉主は、いったいどのような人なのか?」と、情報交換が始まったのが去年と今年の特徴である。新しい炉主はいずれも八重山と深いつながりがあり、集まった人たちは徐々に納得の表情になっていった。
今年の土地公祭は2025年10月6日に開かれた。
新たな炉主が選ばれた後、会場の人たちの間で話題になったのは、新参の人を土地公が炉主に指名したのはなぜかという点である。会場に来ていた人たちとおしゃべりをしながら、私なりに解釈の方法を分類してみた。
「土地公様は、新しく石垣島に来た人に炉主をさせている(これまでとは違う方法だ!)。土地公様は何を考えているのかなぁ」と首をかしげる人。神様の意思を問い続けなければならないという意味で「問神継続必要論」と呼べるかもしれない。
「台湾との関係を濃くしたい(強化したい)のだろうか」という声も聞かれた。「台湾関係強化論」だ。
そして、「土地公様は、石垣島でずっと暮らしている人の子どもたちに『君たちは、新しく来た人たちに負けているよ。どうなってるの?』と言いたいのではないか」という見方をする人もいた。「地元子孫激励論」と呼んでおこう。炉主に選ばれることは、勝ち負けの話ではないし、新しくやってきた人がいいとか悪いとかいうわけでもない。慣例とは異なる形で炉主が誕生したことに驚きを隠せないのである。
新参の炉主に激励
なにぶん、炉主は、神様によって選ばれる人物である。「ポエ」と呼ばれる半月型の道具を使った儀式が土地公の意思を代弁し、新しい炉主を指名する。あくまで神の意思。だれが選ばれても、八重山の台湾の人たちが炉主を軽んじることは決してない。ことしの土地公祭には約80人が集まり、その約半数が台湾出身者かその家族だったが、土地公が炉主を指名する儀式は、人垣を作って見守った。新たな炉主が誕生すると、拍手が起き、激励の言葉が贈られた。
歴史ある土地公祭は、どのように運営していくべきなのだろうか。私自身は、台湾出身者自身が決めていくべきものだと考えている。去年と今年の炉主をめぐり、さまざまな感想が聞かれた。この点は注目していい。土地公祭は今後、どのように展開していくのだろうか。ますます目が離せなくなった。


